或る日の出来事

櫛田悦子

  歩いて7〜8分の距離に長女一家が住んでいます。6歳になったばかりの男の子と、もうすぐ4歳になる女の子、この二人の孫は、私のもとへ舞い降りて来てくれた天使達です。
  3年前の或る日曜日、長女の家のブザーが鳴りました。ママは病院の日直当番で、パパと三人お留守番の日でした。一人の御婦人が「お宅の坊やが一人であの広い道をぽとぽと歩いていますよ」。  応対に出たパパは、二人は昼寝中と思っていましたから、びっくり仰天。とにもかくにも女の子を起こしてからという状況を察して、その御婦人は運転して来た車をUターンさせ、海浜大橋の上で孫に追いつき、市民病院まで伴走して下さったそうです。孫は、相手をしてくれないパパをあきらめて、ママのいる病院行きを一人で決行したわけです。
  恥ずかしい、話にもならないあきれたことですが、病院の玄関に呼び出された長女は、その御婦人のお名前も聞かず、後でお礼に伺うこともせず、3年経った今でも、折にふれ、あのとき事故にでも遭っていたらと、ぞーとする思いに駆られるようで、「それにしても、どうしてうちの子と分かったのかしら?」などと呑気なことを言っています。
  美しい豊かな自然、温暖な気候は言うまでも無く、赤穂に移って何より思うことは、心から親切な人々の悠然とした暖かさです。
  私達、「人生の最後で大当たりのくじを引いたわね。」と話しているおめでたい夫婦です。

(2007年7月25日)

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