一龍斎貞水の講談を聞く
櫛田孝司
義士祭まぢかの12月8日、ハーモニーホールで「貞水・赤穂入り」と銘打って、人間国宝・一龍斎貞水による講談の会が催された。講談など、テレビでちらっと見たことがあるくらいで全くなじみが無かったが、人間国宝ということで、どんなものか一度聞いてみたいと思って出かけた。
プログラムは、声優としてテレビでも多くのアニメに登場する女性講談師・一龍斎貞友による講談、若手講談師たちによる東京案内、林家正楽による紙切りなどの後、貞水の講談というものだった。貞友は、有名な堀部安兵衛の高田の馬場のあだ討ちにまつわる講談を演じ、一方、東京案内は、「義士への想い」と題して、忠臣蔵に関係する場所をスライドを使ってあたかもバスで案内するように紹介するというもので、いろいろと趣向が凝らされていた。また紙切りの第一人者・正楽の芸は、お客から出される題に従ってあっという間に絵を切り上げるもので、テレビで知ってはいたが、紙を手に持ったまま細かなところまで短時間に切り上げるのを間近に見て信じられない思いだった。最後に討ち入りを果たした四十七士が泉岳寺に向かって進む有様を長い紙を使った切絵で見せたが、これもまことに見事なものであった。
しかし、何と言っても圧巻は貞水の講談だった。大石内蔵助と妻りくの離縁から、討ち入り後に寺坂吉右衛門に託して討ち入りの様子をりくに知らせるまでを語るのだが、朗々とした声といい、迫力ある語り口といい、間の取り方といい、非の打ち所が無く、あっという間に引き込まれ、終るまで身動きができないくらいに聞き入ってしまった。場内は全くしんとして物音一つせず、誰もが私と同じように金縛りにあった状態だった。さすが人間国宝と納得するとともに、話術のもつ大きな力を感ぜずにはいられなかった。貞水は昭和50年に芸術祭優秀賞を受賞し、平成14年には講談師初の重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定されているが、実際に講談を聞いて、何一つ無駄の無い語りと迫力に圧倒された。
「夏はお化け、冬は浪士の講談師」と言われるそうで、講談にとって赤穂は聖地と聞いて嬉しかった。夏の方も聞いてみたいと、怪談のDVDも購入した。なお、今回の企画はこれを第1回として、次は20年に吉良町で、また21年には東京でと、忠臣蔵に関係のあるところで続けて行われるとのことである。
もし赤穂に住まなかったら、このようなものに触れる機会はおそらく無かったであろう。これも赤穂に移り住んだからこそと喜んでいる。鼓堂の太鼓や義士祭の前夜祭で桂三枝の創作落語を聴いたときにも同じようなことを思ったが。何しろ、ハーモニーホールには広い無料駐車場があるし、終ってから10分程度で家に帰れるから、気軽に出かけられるところが何ともありがたい。
(2008年1月11日)